「製造のやり方に問題があるのではないか」
この一言を向けられたことがある製造業の管理職は、少なくないと思う。
開発部門と製造現場のあいだに立つと、どちらの言い分も分かる。分かるからこそ、間に立つ人間がいちばん消耗する。私も長くその位置にいた。何が起きていて、何をやったのかを書いておきたい。
条件書どおりに作っても、そのとおりにはならない
製造には、開発部門から発行される製造条件書がある。この条件で加工すれば、狙いの品質になるという設計上の答えだ。
ところが、そのとおりに加工しても不良が発生することがある。基準値どおりのスペックが出ないこともある。
理由の一つは、環境だ。季節や環境条件によって加工条件を変えないと生産できない品種がある。しかし、その調整は条件書には反映されていない。つまり現場は、書かれていないことを補いながら品質を保っている状態だった。
ここが、すれ違いの出発点になる。開発から見れば「条件どおりにやれば出るはず」であり、現場から見れば「そのとおりにやっても出ない」。どちらも嘘は言っていない。見ている場所が違うだけだ。
試作から量産への、段差
もう一つ苦しかったのが、試作から量産に移るときの進み方だった。
試作対応の計画はたいていタイトで、量産の予定を考慮しない生産指示が入ってくる。現場は動いている量産を止めるか、ずらすかの調整を迫られる。
そして、試作で少量の生産を2回ほど実施しただけで量産へ移行することがあった。条件が固まりきらないまま量産が始まり、その後のフォローも手厚いとは言えない。
量産に移ると、扱いが変わる。トラブルが起きて開発の知見や見解が必要になっても、「量産品なので製造で解決する問題だ」となり、協力を得にくくなる。区分としては正しいのだと思う。ただ、条件が固まっていない状態で渡されたものを、製造だけで抱えるのは重かった。
どちらに転んでも、疑いは製造に向く
いちばん堪えたのは、ここだった。
試作の生産でトラブルが起きれば、製造でのミスや加工方法に問題があるのではないかと言われる。量産でトラブルが起きれば、量産品だから製造の問題だとされる。
どちらに転んでも、最初に疑いが向くのは現場だった。
作業者からすれば、決められたとおりにやっているのに疑われる。管理する側からすれば、部下が疑われている状況を放置できない。かといって感情で言い返せば、次の仕事がやりにくくなる。営業、開発、製造の三者で話す場面もあり、立場が増えるほど話は複雑になった。
感情ではなく、データで返すしかなかった
私が取った方法は、単純だった。データを出すことだ。
作業のミスではないこと。設備の不備でもないこと。それを、記録と数字で示す。条件の記録、設備の稼働データ、作業の実績。感想ではなく、事実だけを並べる。
「現場はきちんとやっています」と言葉で主張しても、状況は動かない。ところがデータを出すと、話の焦点が「誰が悪いか」から「何が起きているか」に移る。ここまで来て初めて、原因を一緒に探す会話ができるようになった。
相手を責めるためではなく、疑いを外して前に進めるためにデータを使う。この使い分けは意識していた。
事後の証明は消耗する。だから前に倒した
ただ、データで証明する対応は、起きてからの話だ。毎回これをやっていると疲弊する。
そこで、手前に倒すことにした。
一つは、試作品の生産で重要な工程には自分が立ち会うこと。条件が固まっていない品種は、その場で何が起きたかを自分の目で見ておく。後から記録をたどって説明するより、はるかに早くて正確だ。立ち会っていれば、その場で開発と話すこともできる。
もう一つは、事前の打ち合わせだ。生産に入る前に、条件をどこまで詰めておくかを開発と話す。これが結果として、一番効いた。
事前打ち合わせは、条件を決める場ではなかった
やってみて分かったのは、事前打ち合わせの本当の価値は、条件を詰めること自体ではなかったということだ。
開発がその品種で何を狙っているのか。どういう意図でその条件にしているのか。納期がなぜそこなのか。話してみると、こちらが知らなかった事情が出てくる。
それを現場に持ち帰って共有すると、作業者の受け止め方が変わる。「よく分からない指示が降ってきた」ではなく、「こういう狙いがあるから、ここを外さないようにする」に変わる。目的が見えている作業と、見えていない作業では、精度そのものが違ってくる。
板挟みという言葉には、両側から押される受け身の響きがある。ただ実際にやるべきだったのは、押し返すことではなく、情報を通すことだった。開発の意図を現場へ、現場の実態を開発へ。その通り道になる人がいないから、対立して見えていただけなのだと思う。
立場が違うだけで、敵ではない
誤解のないように書いておくと、開発部門が悪いという話ではない。
開発には開発の納期があり、限られた条件の中で設計している。試作の回数を増やせない事情もある。こちらから見えていないだけで、あちらにも抱えているものがある。
問題は人ではなく、部門の間に情報が流れる仕組みがなかったことだ。仕組みがないところでは、間に立つ人間が手作業でつなぐしかない。地味だが、これができるかどうかで現場の空気は変わる。
いま同じ位置で消耗している人がいたら、まず一度、生産前に話す場を作ってみてほしい。設定するのは面倒だが、後から証明に費やす時間よりは、はるかに短くて済む。
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